「もっと、お祖母ちゃんと、いろんな話をしたかったな…」
長女は絵を描きながら、つぶやいた。 場所は母の部屋。 彼女は、ベッドに横たわる母とベッドサイドの私の姿を描きながら、ポツポツと話し始めた。 西日の差し込む静かな室内には、母の(苦しそうな)息と彼女の鉛筆の音だけが聴こえる。 「若い頃の話とか、戦争のこととか…、お祖父ちゃんと初めて出会った時の話とか…、 もっと聴きたかったな…。」 女三代。 ほんの数年前まで、このような時間と空間を3人で共有することなど、夢にも考えていなかった。 私の母は78歳、3年半前から介護付き老人ホームで暮らしている。 認知症の症状が進行し、自宅介護が不可能になっていたのだ。 母は、2年前の正月、感染症胃腸炎を患った直後に寝たきり老人となってしまった。 以来2年間、胃に直接、経管栄養剤と水分を注入し、生存が保たれている。 介護認定の基準からすれば、身体状態は最悪の段階。 「介護度4」とか「介護度5」とか、そのような認定評価の差は、今はもう問題ではなくなっている。 体重は減り、身体の硬直が始まり、両脚は折れ曲がってきた。 私達家族が母にしてあげられることは、実に少ない。 “暮らしている”というより、“生きて”、“息をしている”という表現の方が正しいのかもしれない。 いや、“ホーム・スタッフの介護によって、生かされている” 恐らく、コレが最も正しい表現だろう。 両親の入居以来、ホームの介護スタッフには感謝してもしきれないほど、お世話になっている。 3日夜、母の容態が悪化した。 ここのところ、肺炎を繰り返し、抵抗力が徐々に低下している。 母を見舞うたびに、全身のパワーを吸い取られるような感じがする。 しかし、“母への想い”、感謝の気持ちを少しでも伝えることができるのなら、幸い至極。 母の顔をなで、身体を擦り、 “どうか、もう少しの間、娘でいさせてください” 心の中で、そう願っている。
by smile-kazuyo
| 2009-01-10 19:58
| 介護
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